会長ブログ(株式会社ヘッドウォータース代表取締役:篠田庸介)

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2007年05月29日 18:31

不変のもの

初めて企業のトップに立ったのは20代半ば過ぎだった。既に経営者としてのキャリアは10年を超えている。追い求める理想に対する情熱は微塵も変わっていない。経験の中から多くを学び、当時に比べれば経営者としての性能は格段に上がっていると思う。

私が20代後半の頃は、ちょうどITバブルの走りの頃だった。年商が3億もいかない頃でも、ベンチャーキャピタルや証券会社から、いくつものアポイントが入り、上場を勧められたものだ。

経営者同士の会合にもよく誘われたし、何度か顔を出した事もある。将来は一兆稼ぐ、二兆稼ぐと景気の良い話が飛び交っていた。また、経団連ではないが、色々な企業の経営者が所属する協会や団体なども勧誘も多く、世間的に名前の知れた経営者や政治家とのコネクションが作れると言うふれこみで多くの社長さんが参加していた。

社長の使命の一つには外部とのアライアンスの構築やトップ同士の営業などもあるので、上記の様なロビー活動も必要だとは思っている。私もそろそろ力を入れて活動しても良いかとも思う。

しかし、多くの若手の経営者を見ていると、この様なロビー活動に勤しむうちに自らを過大評価し見失っていくケースも多い。理想があり志があり決意して前進する姿と、過信し増長する姿は似ていて非なるものだ。また、著名な人達といくら会って話しても、自分の価値は全く変わらない。政治家と顔見知りになろうが、有名な経営者と顔見知りになろうが、凄いのは彼らであって自分ではない。自分達の価値は自分達が作り上げた事業の価値によってのみ決まる。

私に言われたくも無いと思うが、一番大事なのは自社の仲間であり、自分達が魂を込めて作り上げた事業だ。これがあるからベンチャーキャピタルもよって来るだろうし、チヤホヤしてくれるのであって、自分の価値だけを評価してもらっているのではない。組織の総合力の評価を社長が代表して受けているに過ぎない。仲間達の血と汗の結晶を代表して持っているのだ。

0530_a.jpgビジネスにおいて自分が困った時、悩んだ時に力になるのは、友人でも家族でもない。共に前線で戦う仲間だ。だから、外部の人脈を作る事よりも社内の仲間達とのコミュニケーションや教育を重視してきた。相当大きな会社になるまでは、トップは内向きで良いと思う。外向きと言っても事業としてマーケットを見る事は同等に最優先だが、その他のロビー活動は二の次だ。

経営者は孤独だという話もよく聞く。私自身は孤独を感じた事はあまりない。一番近くにいる仲間達を同じ船に乗る運命共同体として信じているし、一昔前の労使交渉の様な敵対関係は現在のビジネスシーンではナンセンスだ。誰にも得がない。壁に当たれば社内の人間と最初に対策を練るし、共に乗り越え喜びを感じていきたい。もし、社内を自分の陣地として一番安心出来る場所に思えない経営者がいるとしたら、不健全なストレスに苛まれ続けるだろう。

本来、私自身は外交的な能力は極めて高い。(←自己評価・・・)ロビー活動むきではある。それ故に一番大事なものを見失わないように、自ら戒めてきたとも言える。

経営者は会社の規模が変わっても、お金を沢山稼いだとしても変わってはいけない。本来、「こんな事業をする」「この事業で社会の一翼をになう」と言って、社員を集め、出資を募り事業を推進したはずだ。これを節義として曲げてはいけない。経営者は事業をしなければならない。元来投資家ではない。資金が出来れば事業につぎ込み次ぎの発展を狙うべきだ。また、一時の方便で社員を丸め込んではいけない。会社がアーリーステージの時に手段として理想を語り、発展したらそれを変えるのでは詐欺師と一緒だ。

不退転の決意の下にビジョンを示し、リーダーシップをとり事業を推進するのが経営者の正しい姿だと思っている。これは私の価値観なので、他者に強制はしない。

会社には市況などにより変えなくてはいけないものと、何があっても変えてはいけないものがある。状況における戦略は柔軟かつスピーディーに変化させるべきだ。それこそがベンチャー企業の強みでもある。企業のアイデンティティの様なものや、求める理想は、目的達成までは変えてはいけない。目的が達成されれば次の理想を追うのも良いし、解散するのも良い。

社風を維持しろというのではない。社風やその企業のカルチャーは常に錬磨し、進化すべきだ。過去に縛られるのは良くない。カルチャーが錬磨された場合は「変わった」とは思わないだろう。社内全体が自然な流れの中で組織が「進化した」という実感を持てるはずだ。これは、朝令暮改とは区別したい。

0530_b.jpg先日、中(ナカ)君というエンジニアと個別面談をとった。彼は現在100名を超えるSVTのエンジニアで最古の存在だ。シーラカンスみたいなものだ。SVTに来たときはアセンブラのスペシャリストだった。スキルの幅をオープン系に広げる為に当時は転職活動をしていた。

コミュニケーション能力もそこそこあり、技術に関しても学習能力が高いので順調にスキルを積み重ねて、入社から3年経ったが現在はWeb系の開発で要件定義を徹底的に行っている。

彼の素材の素晴らしさは一緒にいて嫌みを感じない人徳だと思う。これは自分に合ったリーダー像を造る上で大きな武器だ。当時、事業の立ち上げ時期だったのでメンバーは私一人。そして、この中君が来たので、二人で事業部を立ち上げていた。オフィスも今の様な高層ビルではなく、築ウン十年のお化け屋敷の様な渋谷の線路脇のオフィスだった。そんな状況なのに、社歴や環境ではなく私という人間を信頼してくれて共に歩んでくれた。そして、日曜日の勉強会なども共に立ち上げ、飄々とSVTの基礎作りを担った貢献は大きい。誰にでも出来る事ではない。

その彼が話していたのが、「会長はあの頃も今も変わらないですね。」という事。二人でやっていた頃も100人を超えた今でも同じ未来を見て、同じスタンスで、同じ理想を追っているということ。自分ではそのつもりだが、他者から言われると確認になる。変えてはいけないものを変えずに歩んでいけているのだと思う。

5年後も10年後も、この節義を曲げず、「上場しても、巨大企業になっても全く変わりませんね。」と言われる人でありたい。