ENGINEERING PHILOSOPHY

元管理本部のメンバーが、AIで広報・HTML・SEO・データ集計まで担当範囲を広げた方法

Headwaters Frontier Research  |  2026年10月

私は広報グループで、プレスリリースの校正やサイト更新といった日常業務にAIを組み込み、担当範囲を技術領域まで広げてきました。本記事では、実際の業務パターンと、AIを前提に仕事を設計し直す際の考え方を整理します。

私は元は管理本部の所属で、広報やマーケティングの経験者でも、エンジニアでもありませんでした。専門領域を1つずつ積み上げるのではなく、広報と技術領域の2つに、AIを使って一度に踏み出したことが、この記事の出発点です。ただし、これは私一人の力ではなく、社内に整えられた環境の上で起きたことです。ここでは、AIを前提に仕事を設計している状態を「AI-Native」と呼びます。AIをよく使うかどうかではなく、業務をAIが実行できる単位に分解し、仕組みとして回しているかどうかが、差を生むと考えています。

AI AS A TOOLUse既存の業務に、AIを足す
AI AS A PREMISEDesignAIが実行できる単位に、業務を設計する
⇄前提を変える

01/背景

広報にAI-Nativeな働き方が必要な理由:品質を落とさず、少人数で発信を続ける

広報の仕事は、正確さが前提です。プレスリリースやIR情報は、誤字や数値の誤りが信頼に直結します。一方で、発信の量、サイトの更新、アクセスの分析など、担当する範囲は広がり続けています。人を増やさずに、品質を保ったまま範囲を広げるには、仕事の進め方そのものを変える必要がありました。

AIを「使う」自分が作業の途中で、必要に応じてAIに聞くやり方は人によって異なり、うまくいった使い方が個人の中にとどまりやすい。
AIを「前提に設計する」業務をAIが実行できる単位に分け、手順と判断基準を仕組みにする誰がやっても同じ品質で回り、人は判断と責任に集中できる。

私の場合は、広報に習熟した人が技術を学び足したのではありません。元管理本部から、広報と技術領域の2つの専門領域へ、一度に踏み出しています。AIを前提に仕事を設計できたことが、それを可能にしました。

私の出発点:2つの専門領域に一度に踏み出した
出発点元管理本部広報・⁠マーケティングの経験も、開発の経験もない状態から始める。
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領域 1広報の専門性校正や発信の勘所を、AIと一緒に確かめながら身につける。
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領域 2技術領域の知識HTML、構造化データ、SEO/GEO、GA4を、AIと一緒に調べて使えるようにする。
AIと一緒に確かめながら進めることで、広報と技術領域の両方を、同時に担当できるようになった

この記事は、後者の考え方で、私の広報グループでの業務がどう変わったかを記録したものです。個人の実践の記録であり、効果の数値は載せていません。

02/業務の全体像

私が担当する5つの業務領域:AIを組み込んだ範囲

AIを組み込んだ業務は、次の5つの領域に分けられます。後の章で、それぞれの具体的な運用を紹介します。

01リリース原稿の校正、複数媒体の差分チェック
02サイト運用HTML更新、構造化データ、SEO/GEO
03分析アクセス解析(GA4)、結果の読み取り
04社内推進繰り返す作業のスキル化と共有
05振り返り1on1・会議の記録から宿題を抽出

1つ目と2つ目は広報の業務領域、3つ目以降は技術や仕組みづくりに近い領域です。元管理本部の私は、AIを前提に仕事を設計することで、これらを順に担当できるようになりました。

03/支える環境

AIの利用が全社に広がった会社で、AIは「特別な道具」ではない

ヘッドウォータースでは、Microsoft 365 Copilot、GitHub Copilot、Claudeの利用者を延べ人数で数えると、社員数を上回っています。1人が複数のツールを使い分けているためで、全員が使っているという意味ではありません。それでも、エンジニアも営業も、管理部門も、AIを使って仕事をする人がいる状態です。私が管理本部の出身でも広報の仕事をAIで組み立てられたのは、この環境があったからです。

環境 1ツールは用途で使い分ける
文書やメール、会議、社内の情報を扱う日常業務はMicrosoft 365 Copilotで行います。開発はGitHub Copilotです。リサーチや記事・⁠ページの制作、データ分析にはClaudeを使います。どのツールを使うかは部署で決まっているわけではありません。一人ひとりが、仕事の内容に合わせて選んでいます。同じスキルをCopilotとClaudeの両方で試し、仕上がりを比べてから使い分けることもあります。
環境 2良いやり方は「スキル」として全社で共有される
誰かが作った業務の型は、スキルとして、社内で共有できる仕組みに登録されます。エンジニアが作ったスキルを広報が使い、広報が作ったスキルを経営企画が使う。そんなやり取りが日常的にあります。部署の垣根を越えて、ノウハウがそのまま広がっていきます。
環境 3安全に任せられる「ハーネス」がある
AIが作る記事には、社内情報や顧客情報が入らない仕組み(ハーネス)を組み込んでいます。そのうえで、公開前には人がチェックします。GA4やSearch ConsoleといったデータもAIから読み取り専用で安全につながっているため、AIがサイトの流入や反響を分析し、それを次の施策に生かせます。
環境 4だから、この働き方は誰でも再現できる私がしたことは、ゼロから仕組みを作ることではありません。AIを使う人が社内に広く、良いやり方が共有され、安全な仕組みが用意されている。その環境の上で、自分の業務に合う形を探しました。実際に同じ仕組みを渡されたメンバーは、数分で同じ水準の記事を作れています。これは私ひとりの特技ではなく、会社の組織力です。

04/事例① 品質管理

プレスリリースの校正と差分チェック:機械で確かめ、人は判断に集中する

プレスリリースは、1つの原稿が複数の場所に載ります。自社サイトのCMS、配信サービス、Word原稿の3か所です。媒体ごとに書式が異なり、転記のたびに、文字の抜けや表記の揺れ、数値の食い違いが起こり得ます。この確認を人の目だけで行うと、時間がかかるうえに、見落としも出ます。

3媒体の差分チェックの流れ
STEP 1原稿を3か所から集める自社サイトの掲載内容、配信サービスの内容、Word原稿をそろえる。
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STEP 2AIが差分を洗い出す文字、表記、日付、数値の違いを一覧にする。
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STEP 3人が判断する違いが意図したものかを確認し、修正方針と公開の可否を決める。

AIは、差分の洗い出しと、表記の揺れや日付と曜日の整合性などの校正を担当します。人は、その結果が意図した違いなのか、直すべき誤りなのかを判断します。確認の作業を機械に任せ、責任のある判断は人が持つ、という分担です。

05/事例② 技術領域への越境

元管理本部から技術領域へ:HTML、構造化データ、SEO/GEO、GA4

サイトの更新を、開発の担当者に依頼するだけでは、公開までに時間がかかります。そこで、HTMLの編集、構造化データ(検索エンジンやAIに内容を伝えるための記述)、SEO/GEO(検索エンジンや生成AIに見つけてもらうための対策)、アクセス解析のGA4を、自分で扱えるようにしました。

担当範囲の広がり
1HTMLページの構造を読み、既存のページを修正できる
2構造化データ記事や組織の情報を、検索エンジンが読める形で記述できる
3SEO/GEO見出し、説明文、内部リンクなどを、検索の観点で見直せる
4GA4アクセスのデータを集計し、改善の材料として読み取れる
検証の工夫:AIの出力をそのまま公開しない広報の経験も開発の経験も持たない人が技術の領域を扱ううえでは、AIが出した内容が正しいかを、自分で確かめる手順が欠かせません。AIの説明を鵜呑みにせず、検証ツールや公式の文書で確かめてから反映します。確かめられない内容は、反映しません。

過去に公開したサービスの紹介ページのSEO対策や、他のページからのリンクの設置も、この進め方で担当しました。広報の経験や技術の知識が先にあったのではなく、AIと一緒に調べ、確かめながら進めることで、担当の範囲が広がっていきました。

06/事例③ 仕組み化

繰り返す作業のスキル化:属人化を解消し、再利用できる形にする

同じ作業を毎回AIに頼むと、指示の出し方で結果がぶれます。そこで、毎回やる作業を、手順と判断基準を書いた「スキル」にまとめました。たとえば、公開済みの記事を複数本読み込み、そのデザインと構成の特徴を整理して、新しい記事の原稿を同じ体裁に整えるスキルがあります。

スキル化の流れ
STEP 1毎回やる作業を見つける繰り返し発生し、手順が決まっている作業を選ぶ。
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STEP 2手順と判断基準を書き出す人が暗黙に行っている確認や、迷いどころを文章にする。
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STEP 3スキルとして保存するAIが同じ手順で実行できる形にする。
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STEP 4使いながら直すうまくいかなかった点を反映し、誰でも再利用できるようにする。

スキルにすると、作業のやり方が自分の頭の中から外に出ます。引き継ぎがしやすくなり、他の人も同じ品質で使えるようになります。

07/事例④ 振り返りの自動化

1on1や会議の記録の活用:宿題の抽出と進捗の突き合わせ

1on1や会議の文字起こしを、AIに渡して整理する運用も始めました。話した内容から、次までにやることを抽出し、次の機会に、進んだか、止まっているかを突き合わせます。決めたことが記録の中に埋もれず、次の行動につながります。

振り返りの運用
STEP 1文字起こしを渡す会議や1on1の記録を、個人名などを伏せた形でAIに渡す。
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STEP 2宿題を抽出する決まったことと、担当・⁠期限を一覧にする。
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STEP 3次回に突き合わせる進捗を確認し、止まっているものを見える化する。

扱う記録には、人事や個別の発言が含まれます。そのため、渡す情報の範囲を決め、個人が特定される内容は伏せるようにしています。

08/うまくいかなかったこと

AIに任せて失敗した例:読めないファイルと、未確認の数値

ここまでの運用は、順調だった部分だけではありません。うまくいかなかった例と、その後の対応を紹介します。

失敗 1AIが読めないファイル秘密度ラベルが付いたファイルは、AIが開けないことがある。読めていないのに、読めたような答えが返ることもあった。
失敗 2数値が未確認のまま進んだAIが出した数値を、元の資料で確かめる前に、文章に入れかけた。
対応「確認不可」と返させる読めないもの、確かめられないものは、推測で埋めずに「確認不可」と返すようにAIに指示する。

AIは、確かめられないことも、もっともらしく答えることがあります。そのため、一次情報で確かめられたことと、確かめられなかったことを分けて報告させる運用に切り替えました。確かめられなかったことが分かれば、人が次の手を打てます。

09/AI-Native化の3原則

AIを前提に設計するための考え方:3つの原則

ここまでの実践から、AIを前提に仕事を設計するときの原則を、3つに整理しました。

原則 1人は判断と責任を持つ作業はAIに任せ、公開してよいか、誤りかどうかの判断と責任は人が持つ。
原則 2一次情報を取りに行くAIの答えを根拠にせず、元の資料、公式の文書、実際のデータで確かめる。
原則 3小さく実験し、宣言して回す小さな範囲で試し、何を任せたかを周囲に伝えたうえで、運用として回し続ける。

冒頭の主張に戻ると、AIの活用で差が出るのは、ツールを使うかどうかではありません。業務をAIが実行できる単位に分解して、仕組みにしているかどうかです。3つの原則は、その仕組みを安全に回すための条件でもあります。

10/人材の移動

バックオフィス人材のこれから:職種の枠を前提にしない異動とリスキリング

今後、バックオフィスの業務がAIで効率化されると、人員をどう事業側へ移していくかは、多くの企業にとって検討が必要になると考えられます。移す先の解像度が高くないと、「とりあえず営業」のような異動になりやすいのではないでしょうか。人の時代に定義された職種の枠にとらわれず、仕事の単位で考える見方が、これから必要になると考えています。

バックオフィス業務のAI化と、次の領域への広がり
STEP 1業務がAIで効率化される定型の事務や確認の作業を、AIが担う範囲が広がる。
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STEP 2余力を仕事の単位で捉え直す人が担っていた作業を、職種名ではなく、仕事の単位に分けて見る。
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STEP 3次の専門領域に踏み出す広報や技術領域など、事業に近い領域へ、AIと環境を使って広げる。

私は、元管理本部から広報と技術領域へ広げてきました。この道筋は、今後バックオフィスから事業側へ移る人にとって、一つの参考になるかもしれません。当社に限らず、企業が人材の移動を検討するときに、次の3つの視点が役立つと考えています。

視点 1移る先を仕事の単位で描く「営業」「企画」のような職種名ではなく、どの作業を担うのかまで具体的に描く。
視点 2環境を先に用意するスキルの共有、データの接続、安全策を整えてから、人を移す。
視点 3判断と責任は人が持つ作業はAIと分担しつつ、公開や意思決定の責任は人が持つ前提を変えない。

11/まとめと展望

AIを前提にした仕事の設計:広報から組織へ

私は、校正、サイト運用、分析、振り返りへと、AIを前提にした仕組みを少しずつ広げてきました。担当範囲が技術の領域まで広がったのは、新しい知識を先に身につけたからではなく、AIと一緒に確かめながら進める手順を仕組みにでき、その手順を支える環境が社内に整っていたからです。

非エンジニアであることだけなら、広報に習熟した人にも当てはまります。私に特有なのは、元管理本部という出発点から、AIを活用して、広報と技術領域という2つの専門領域に一度に踏み出せたことです。AI-Native人材とは、AIを使いこなす人というより、AIを前提にした仕組みで、専門領域の広げ方そのものを変えられる人だと、当社では考えています。ただし、個人の力だけで再現できるものではありません。スキルの共有、データの接続、安全策といった環境があって、はじめて広がります。

この考え方は、広報に限らず、繰り返しの多い業務を持つ部門に広げられると考えています。広げるときには、人が判断する範囲と、AIに任せる範囲を、あらかじめ決めておくことが大切です。まずは、毎回やっている作業を一つ選び、手順と判断基準を書き出すところから始めてみてください。

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