HUMAN + DIGITAL WORKFORCE UNIT
1 + 9
= 10人のチーム
人間(顧客との関係・最終判断・責任)
デジタル従業員(調査・分析・作成・実行)
1人を10人分にするAIは、生産性向上の話です。1人と9体のデジタル従業員で10人のチームを作る話は、組織の再設計になります。この記事は、前の記事Human-Agent Ratioで扱った「比率を測る」話の続きとして、その比率を持つ組織を「どう組むか」を考えます。
Human + Digital Workforce Unitの5W1H
What何か
少人数の人間と複数のデジタル従業員を、最初から1つの業務ユニットとして設計する組織の考え方
Whyなぜ必要か
担い手が減るなか、採用の増加だけでは供給力を保てない。AIを配るだけでは、組織の形が変わらないため
Who誰が使うか
人手不足を人とAIの組み合わせで解き、AIネイティブな企業を目指す経営者、事業責任者、組織設計に関わる人事・IT部門
Whenいつ必要か
エージェントが特定の職務を担い始めた段階から。複数のエージェントを同時に動かす段階で欠かせなくなる
Whereどこに置くか
事業部門の縦軸と、機能を横断するユニットの両方。業務の性質ごとに構成を決める
Howどう設計するか
仕事を人間とデジタル従業員に再配分し、職務を定め、共通のAI基盤につなぎ、比率と成果を測りながら構成を調整する
この記事の流れ
01〜04なぜ今、ユニットなのか前提、人員不足の数字、世界の動向、組織論の系譜
→
05〜07何をどう設計するのか定義、役割の再配分、擬人化の意味
→
08〜11どう成り立たせるのか10人チームの試算、AI基盤、不安への見方、まとめ
01/前提
AIを配る会社と、ユニットを設計する会社:補助ツールから業務ユニットへ
多くの会社でAI活用は、全社員にAIの利用環境を配るところから始まります。これは個人の作業を速くするうえで有効です。ただし、組織の形は変わりません。マネージャー1名とメンバー5名の体制のまま、各自がAIを使うだけです。人手が足りないという課題に対しては、採用を増やすか、各自の頑張りを増やすかの選択が残ります。もう一つの選択肢が、仕事の担い手の組み方を作り直すことです。
観点
AIを補助ツールとして配る
ユニットとして設計する
目的
個人の作業を速くする
ユニットとして引き受けられる仕事を増やす
設計の単位
個人。組織の形は従来のまま
人間とデジタル従業員を組にした業務ユニット
AIの位置づけ
人が使う補助ツール
職務を持つ、組織の戦力
人間の役割
AIを使いながら、同じ仕事を続ける
顧客との関係、最終判断、責任、調整に集中する
人手不足への答え
採用の増加か、各自の頑張りの増加
仕事の再配分と、ユニットの構成の設計
前者は、社員をAIで効率化する発想です。後者は、仕事を人間とデジタル従業員に再配分する発想です。この違いは、生産性向上と組織の再設計の違いとして現れます。
02/人員不足の数字
採用だけでは埋まらない人手不足:生産年齢人口とキャパシティギャップ
人が足りないから人を採る、という解き方には限界があります。担い手そのものが減っているためです。生産年齢人口(15〜64歳)は、2020年の7,509万人から2040年に6,213万人、2070年には4,535万人へ減ると推計されています。同時に、現場では時間と気力が足りないという声が広がっています。
約4割減
生産年齢人口(15〜64歳)の2020年から2070年までの減少
国立社会保障・人口問題研究所の令和5年推計
80%
仕事に必要な時間や気力が足りないと答えた従業員とリーダー
Microsoft Work Trend Index 2025
53%
生産性を上げる必要があると答えたリーダー
Microsoft Work Trend Index 2025
275回
1日に受ける会議・メール・チャットによる中断。勤務時間中は2分に1回
Microsoft Work Trend Index 2025
人員不足への従来の解き方
人が足りない↓採用・外注を増やす↓採用・育成・管理の負荷が増える
供給力が人数に比例し、担い手が減る局面では、解決策そのものが先細りになります。
ユニット設計による解き方
人が足りない↓仕事を人とデジタル従業員に再配分する↓少人数の人間が、判断と責任に集中する
供給力を、人数と切り離して設計できます。採用は、足りない判断力を補う用途に絞られます。
03/世界の動向
Frontier Firmと人・技術・協働の3分割:人とエージェントのチームを前提にした組織
MicrosoftのWork Trend Index 2025は、人とエージェントのチームを前提にした組織をFrontier Firmと呼び、その姿を「AIが運営し、人が導く(AI-operated but human-led)」と表しています。機能別の組織図の代わりに、目標ごとに人とエージェントが組む「ワークチャート」で仕事を進める姿も描かれています。これは、仕事の担い手を最初から人とエージェントの組として設計するという、この記事の考え方と同じ向きです。
2025年11月McKinsey Global Institute
82%
今後12〜18か月で、デジタルレイバーで仕事量を拡張する見込みのリーダー
Microsoft Work Trend Index 2025
46%
エージェントで業務の流れやプロセスを完全に自動化していると答えたリーダー
Microsoft Work Trend Index 2025
28%
人とエージェントの混成チームを率いる人材の採用を検討しているマネージャー
Microsoft Work Trend Index 2025
40%超
2027年末までに中止されると予測されるエージェント型AIのプロジェクト
Gartner(2025年6月)
一方で、導入が進むほど、設計の難しさも表れます。Gartnerは、価値が不明確なものを中心に、エージェント型AIのプロジェクトの4割超が2027年末までに中止されると予測しています。個別の導入ではなく、組織としての組み方と測り方が問われています。
04/組織論の系譜
POD型とマトリクス組織:小さな自律ユニットと縦横の掛け合わせ
人とデジタル従業員を1つの単位にする考え方は、組織論ではまったく新しい発想ではありません。小さな自律したチームを単位にする考え方と、事業の縦軸と機能の横軸を組み合わせるマトリクスの考え方は、すでに多くの組織で試されてきました。ユニット設計は、この延長線上で、チームの構成員にデジタル従業員が加わったものと見ることができます。
型 1
POD型・少人数の自律チーム
職種の異なる少人数が、1つの目標に向けて、意思決定と実行まで自律して進める単位。小さな単位で速く動き、数を増やして広げる。
ユニット設計との接点:構成員にデジタル従業員が加わり、少人数でも担える仕事量が広がる
型 2
マトリクス組織
事業や製品の縦軸と、職能や機能の横軸を組み合わせ、1人が両方の軸に属する組織。専門性の共有と事業への集中を両立する。
ユニット設計との接点:横軸の機能を、デジタル従業員が複数の事業にまたがって担える
型 3
ワークチャート
機能別の組織図に代わり、目標ごとに人とエージェントが組むチームで仕事を進める、成果起点の組織の姿。Work Trend Index 2025が示している。
ユニット設計との接点:最初から人とデジタル従業員の組で単位を作る
縦の事業部門 × 横断のユニット(考え方を整理して作図。人数は構成の例)
縦:事業 / 横:機能
営業・顧客対応
企画・分析
運用・実行
事業部門 A
H 1 + D 5
H 1 + D 3
H 1 + D 8
事業部門 B
H 2 + D 4
H 1 + D 3
H 1 + D 6
事業部門 C
H 1 + D 4
H 1 + D 5
H 2 + D 8
H=人間、D=デジタル従業員。各マスが1つのユニット。事業部門ごとに専用のユニットを持つ場合と、機能ごとに複数の事業を横断して支える場合の両方を、同じ表で設計できます。
05/定義
Human + Digital Workforce Unitとは:人間が率い、デジタル従業員が動かす業務ユニット
Human + Digital Workforce Unit(Human-led AI Unit)は、人間とデジタル従業員を最初から1つの組織単位として設計する考え方です。人間は顧客との関係、最終的な意思決定、責任、高度な判断、組織間の調整に集中します。デジタル従業員は、情報収集、分析、資料作成、モニタリング、タスク管理、計画立案、定型の判断、業務の実行を継続的に担当します。前の記事のHuman-Agent Ratioは、このユニットの人とデジタル従業員の割合を測る物差しになります。
ユニットの構成の変化(考え方を整理して作図)
マネージャー人間デジタル従業員
人数は構成を説明するための例です。適切な構成は、業務の性質と、人が判断と責任を持てる範囲によって決まります。
06/役割の再配分
人間が担う仕事と、デジタル従業員が担う仕事:業務の再配分という設計
ユニット設計の中心は、仕事の再配分です。既存の担当者の作業を一つずつAIに置き換えるのではなく、ユニットとしての仕事を棚卸しし、判断と責任を伴うものを人間に、継続して回す作業をデジタル従業員に割り当てます。
HUMAN
人間が担う
●顧客との関係づくり
●最終的な意思決定
●結果に対する責任
●高度な判断(前例のない状況、価値判断)
●組織間の調整と合意形成
DIGITAL WORKFORCE
デジタル従業員が担う
●情報収集
●分析
●資料作成
●モニタリング
●タスク管理
●計画立案
●定型の判断
●業務の実行
この境目は固定ではありません。デジタル従業員の判断の実績と、人が行う確認の記録が積み上がるほど、定型の判断に近い仕事から、人間の担当がデジタル従業員の担当へ移っていきます。移す条件と、人へ戻す条件を、業務ごとに決めておくことが前提になります。
07/擬人化の意味
AIツールとデジタル従業員の違い:職務を持たせ、名前を付けて働かせる
デジタル従業員は、人が使う単なるAIツールではありません。特定の職務を持ち、人間と一緒に働く存在として設計します。たとえば経営企画の担当であれば、中期経営計画、KPI、投資判断、事業ポートフォリオ、経営会議の支援を担う、といった職務を定めます。そこに人名のような名前を付けて擬人化するのは、見た目の演出ではなく、組織の中で扱いやすくするための設計です。
観点
AIツール(Copilot型)
デジタル従業員
位置づけ
人が使う道具。使う人の頭の中に仕事が残る
職務を持つ組織の一員。仕事の単位で任される
責任の範囲
あいまい。使った人の作業の一部
担当する職務と、判断してよい範囲を定める
呼びかけ・依頼
ツールを開いて、都度指示を書く
名前を呼んで、職務に沿った依頼を渡す
評価と改善
個人の使いこなしに依存する
職務ごとに、成果と品質を測り、改善を重ねる
引き継ぎ
使い方が個人に閉じる
職務と判断基準が記録され、組織で引き継げる
擬人化は、人と同じ扱いをするという意味ではありません。権限、監査、停止の条件は、人とは別に定める必要があります。職務を明確にして呼びやすくするところまでが擬人化で、統制は仕組みとして別に設計します。
08/10人チームの試算
1人+9体で10人のチーム:構成の違いによる1人分の仕事あたりのコスト
10人分の仕事を担うチームを、3つの構成で比べます。デジタル従業員1体が、人1人分の仕事量(1 Agent FTE)を担うと仮定しています。
説明のための試算:10人分の仕事を担うチームの月のコスト
人間のコストデジタル従業員のコスト
全員が人間10人
月のコスト 548万円1人分の仕事あたり 54.8万円
人間2名+デジタル従業員8体2 + 8
月のコスト 190万円1人分の仕事あたり 19.0万円
人間1名+デジタル従業員9体1 + 9
月のコスト 145万円1人分の仕事あたり 14.5万円
人1人分のコストは月54.8万円(給与、賞与、残業代、社会保険、採用・育成を含む平均的な総コスト)、デジタル従業員1体は月約10万円として計算しました。全員が人間の場合に比べ、人間2名+デジタル従業員8体の構成で約65%、人間1名+デジタル従業員9体の構成で約74%、1人分の仕事あたりのコストが下がります。
デジタル従業員の開発・運用の費用は含めていません。人による指示・レビューの時間は、人間側の仕事量に含まれるものとしています。AIの月約10万円は、時給約600円のモデルで月162時間働く場合の試算です。
この試算は、コストの低さを目的にしたものではありません。人間1名が9体を率いて、判断と責任を持てるかどうかが、この構成の実現性を決めます。前の記事で見たように、デジタル従業員が多すぎると、人の判断と意思決定の能力を超え、事業リスクと人の負荷が増えます。業務ごとに、人間がどこまで確認できるかを測りながら、構成を決めていくことになります。
09/AI基盤
AIが働ける会社のOS:業務データと暗黙知をつなぐ共通基盤
デジタル従業員は、職務を決めるだけでは働けません。業務のデータにアクセスでき、会社に固有の判断基準や暗黙知を参照でき、どこまで任されているかを識別できる状態が必要です。これらを全員が共通で使えるようにする基盤が、AIが働ける会社のOSに当たります。個々のデジタル従業員を増やす前に、この基盤が整っているかどうかが、ユニットを増やせる速さを決めます。
LAYER 5事業の執行
ユニットが顧客に向き合い、事業の成果を出す
LAYER 4人間+デジタル従業員のユニット
人間が率い、デジタル従業員が職務を担う
LAYER 3デジタル従業員
職務、権限、判断してよい範囲を定義した、エージェント
LAYER 2業務データ・暗黙知
業務のデータと、判断基準・修正の履歴など、会社に固有の知見
LAYER 1企業のAI基盤
ID・権限・監査、データ接続、モデルの利用など、全員が共通で使う土台
下の層ほど会社として共通に整え、上の層ほど事業ごとに差が出ます。ユニットが増えても、基盤とデータは1つのまま使えることが、組織全体の生産性を引き上げる条件になります。
10/不安への見方
従業員は不要になるのか:仕事の入れ替わりと、人間の役割の移り変わり
デジタル従業員が増えると、人は要らなくなるのではないか、という不安は自然なものです。数字では、見方が分かれています。世界経済フォーラムは、2030年までに1億7,000万の仕事が新しく生まれ、9,200万の仕事が失われ、差し引き7,800万の純増になると見込んでいます。Microsoftの調査では、リーダーの33%がAIによる人員削減を検討する一方、78%がAI関連の新しい役割の採用を検討しています。
ユニット設計で変わるのは、人間の仕事の中身
ユニットの中で人間に求められるのは、デジタル従業員に職務を与え、成果を確認し、判断の基準を磨き続けることです。顧客との関係、最終の意思決定、責任、組織間の調整は、人間の仕事として残ります。デジタル従業員を使いこなせる人材が増えるほど、1つのユニットが引き受けられる仕事は広がり、事業を伸ばす余地が大きくなります。
この記事が目指すのは、人を減らすための設計ではありません。人間と、複数のデジタル従業員を掛け合わせて、会社として引き受けられる仕事を増やす設計です。
11/まとめ
Human + Digital Workforce Unit:仕事の担い手の組み方を設計し直す
→
AIを配るだけにしない:補助ツールの配布と、ユニットの設計は、別の施策として考える
→
仕事を再配分する:人間は関係・判断・責任に、デジタル従業員は調査・分析・実行に集中する
→
組織論の延長で考える:POD型やマトリクスの構成員に、デジタル従業員を加える
→
職務を定めて擬人化する:名前と職務を持たせ、権限と監査は別に設計する
→
構成を試算で決める:1人+9体のような構成の費用と、人の確認できる範囲を並べて決める
→
共通基盤を先に整える:データ・暗黙知・権限を、全ユニットが共通で使えるようにする
→
比率を測り続ける:Human-Agent Ratioで、人とデジタル従業員の割合と成果を確かめる
→
人の役割を設計する:人間の仕事は減らすのではなく、判断と責任へ移す
AIを配るだけでは、組織の形は変わりません。仕事を人間とデジタル従業員に再配分し、人間とデジタル従業員を1つの業務ユニットとして設計し、その比率を測り続ける。前の記事のHuman-Agent Ratioと合わせて、人手不足の時代に会社が伸びるための組み方の一つとして考えています。
最後に、私自身の取り組みを少しだけ。私は、組織の単位で、人間とデジタル従業員を組にした業務ユニットの設計を試しています。構成の決め方や、任せる仕事の移し方、基盤の整え方は、反響があれば、また別の機会にお伝えします。
著者 / Author
西間木 将矢 株式会社ヘッドウォータース 取締役
テクノロジーによって、人と企業の可能性を再定義するテックリーダー。
現在のテーマは、「経営と事業の自動運転」。人、データ、企業に蓄積された暗黙知、AIエージェントを統合し、経営と事業が自律的に動き、学習し、進化する企業の実現を目指している。
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