LANGUAGE FIRST
Language
言語を決めてから、サーバーと構成を決める
ARCHITECTURE FIRST
Architecture
構成を決めてから、合う言語を選ぶ
⇄
選ぶ順序
この記事の5W1H
What何の話か
PHPの脆弱性をきっかけに、開発言語をどう選ぶかを考える話です。
Whyなぜ必要か
「PHPを使っているか」だけでは、安全性も、これからの開発の方針も説明できず、開発を依頼する会社の選び方にも関わるためです。
Who誰のためか
情報システム部門、開発責任者、システムを発注する事業部門の方。
Whenいつ考えるか
PHP2Shellへの対応と、次のシステムの計画を同時に考えるとき。
Whereどこで
クラウドとサーバーレスを組み合わせて構成するシステム。
Howどう選ぶか
言語から決めるのではなく、アーキテクチャから逆算して選びます。
この記事の流れ
01〜02何が起きたのかPHP2Shellの概要、PHPとWeb開発の歴史
→
03〜06なぜ選び方が変わるのかPHPのシェアの推移と4つの構造変化、サーバーレスと言語、AI・データ、アーキテクチャからの逆算
→
07〜09どう答え、どう判断するのか当社の例(2021年の技術選定)とAzureのセキュアな構成、PHPシステムの判断軸、まとめ
01/今回の脆弱性
PHP2Shellとは:2026年10月に公表されたPHP本体の脆弱性
PHP2Shellは、PHP本体で見つかった2件の脆弱性(CVE-2026-109618、CVE-2026-109619)の通称です。PHP開発チームは2026年10月21日に修正版を公開しました。悪用されると、ログインしていない攻撃者がWebサーバー上で任意のコードを実行できる可能性があります(RCE:リモートコード実行)。IPA(情報処理推進機構)とJPCERT/CCは10月22日に注意喚起を出し、修正版への更新と、侵害の有無の確認を呼びかけています。
9.2
CVSS v4.0の深刻度。2件とも緊急
出典:PHP公式のセキュリティアドバイザリ
4系列
修正版を公開(8.5.12/8.4.27/8.3.36/8.2.35)
出典:PHP公式、2026年10月21日
10/22
IPAとJPCERT/CCが注意喚起を公開
出典:IPA、JPCERT/CC
12/31
PHP 8.2系の公式サポート終了日(2026年)
出典:JPCERT/CCの注意喚起に関する報道
脆弱性は、言語の優劣を示すものではない
重大な脆弱性は、どの言語やミドルウェアにも見つかる可能性があります。今回の件で問われているのは、どの言語を使っているかよりも、使っている環境を把握し、修正版をすぐに適用できる体制があるかどうかです。IPAも、PHPを使っているプログラムや製品の洗い出しと、サポートが終わったバージョンを使い続けていないかの確認を勧めています。
02/PHPと歴史
PHPとWeb開発の歴史:Webの成長とともに広がった言語と、変わった作り方
PHPは、WebサイトやWebサービスを作るために広く普及したプログラミング言語です。WordPressをはじめ多くのCMSやWebシステムで使われ、Laravelなどのフレームワークも充実しています。Web技術の利用状況を調べるW3Techsによれば、サーバーサイドの言語が判明しているWebサイトのうち、約7割がPHPを使っています。当社にも、過去にPHP/Laravelを用いた開発実績があります。PHPを「古い」「危険」と評価する記事ではありません。
PHPが広がった理由:企業にとっての経済合理性
PHPが選ばれてきたのは、技術の好みよりも、企業がWebサイトを持つうえで経済的に合理的だったからです。特にWordPressの普及で、企業のWebサイトはブログのような手軽さで更新できるようになり、ページを追加するたびに制作を外注する必要がなくなりました。W3Techsによれば、WordPressは今も全Webサイトの約4割で使われています。
理由 1安く動かせる多くのレンタルサーバーが標準でPHPに対応し、専用のサーバーを持たなくても低い費用でWebサイトを公開できた。
理由 2自社で更新できるWordPressなどのCMSで、担当者がブログのように記事やページを更新できる。更新のたびに外注する費用と時間が減った。
理由 3作り手が多い制作会社やエンジニアが多く、テーマやプラグインも豊富。外注先や人材を探しやすかった。
69.2%
サーバーサイドの言語が判明しているWebサイトのうち、PHPを使う割合
出典:W3Techs、2026年10月26日
65.5%
PHPを使うサイトのうち、バージョン8で動く割合
出典:W3Techs、2026年10月26日
7.7%
PHPを使うサイトのうち、サポートが終わったバージョン5で動く割合
出典:W3Techs、2026年10月26日
PHPとWeb開発の歩み
1995年
PHPの公開個人のホームページを作るためのツールとして生まれる。
2000年代
LAMPとWordPressLinux・Apache・MySQL・PHPの組み合わせが、安価なレンタルサーバーで動く定番に。2003年にWordPressが公開される。
2006〜2010年
クラウドの登場AWS(2006年)とMicrosoft Azure(2010年)が始まり、サーバーを買わずに借りる時代へ。
2011年
Laravelの公開PHPでのモダンな開発を支えるフレームワークとして広がる。
2014〜2016年
サーバーレスとコンテナAWS Lambda(2014年)、Azure Functions(2016年)が登場。サーバーを意識せずに処理を動かす作り方が広がる。
2015年頃〜
JAMstackとヘッドレスCMS画面を事前に作ってCDNから配信し、動的な処理だけAPIに任せる作り方が広がる。2016年にはWordPressも標準でREST APIを備える。
2015〜2020年
PHP 7・8性能が大きく向上し、型の仕組みも強化される。PHP自体も進化を続ける。
2022年〜
生成AIの時代ChatGPTの公開をきっかけに、AIをシステムに組み込むことが当たり前に。
PHPは、安価なサーバーでWebサイトを動かす時代に最も合う言語として広がり、PHP 7・8で性能と型の仕組みも大きく改善されてきました。この20年で変わったのは、言語よりも、システムの作り方です。クラウド、サーバーレス、生成AIが加わり、Webサーバーの上でアプリを動かすことは、システムの一部になりました。
利用が広いことは、それだけ多くのシステムが今回の脆弱性の影響を受けうることも意味します。PHPを使っているサイトのうち、7.7%は公式のサポートが終わったバージョン5で動いています。言語を選ぶことと同じくらい、選んだ後に更新し続けられるかが大切になります。
03/構造変化
PHPのシェアはなぜ下がっているのか:Web開発の4つの構造変化
見落とされやすい点:高いシェアは、これまでのWebシステムも含めた数字
PHPのシェアは今も約7割と大きく、「PHPは今も主流」と受け取られがちです。ただ、この数字には、何年も前に作られて動き続けているWebシステムやWordPressのサイトがすべて含まれます。一方で、技術に携わる人の間では、PHPは「以前は使っていた」言語という感覚が強いのではないでしょうか。新規開発の動きは、全体のシェアの数字には出にくいと考えられます。
そこで、シェアの推移に注目します。既存のシステムはすぐには置き換わらないため、シェアが下がるのは、新しく作られるシステムでPHP以外が選ばれている分が積み上がっているからだと読めます。つまり、シェアの低下は、新規開発のトレンドを映したものです。このことは、あまり語られていません。
W3Techsの調査で、サーバーサイドの言語が判明しているWebサイトのうちPHPを使う割合を3つの期間に分けると、2021年頃から下がり方が速くなっています。下の4つの構造変化と並べると、変化はまず大規模なサービスで起こり、時間をかけてWeb全体へ広がってきたと読めます。
2015〜2021年80.6% → 79.1%6年で約1.5ポイント減。ほぼ横ばい。②③の作り方は、大規模なサービスから使われ始めた段階。
2021〜2024年79.1% → 76.7%3年で約2.4ポイント減。③の作り方と、そのためのツールやホスティングが一般のWebサイトにも広がる。
2024〜2026年76.7% → 69.2%約3年で約7.5ポイント減。③の定着に、④の生成AIの組み込みが重なる。
PHPのシェアの推移2015年1月80.6%
2021年1月79.1%
2023年1月77.7%
2024年1月76.7%
2025年10月73.4%
2026年10月69.2%
サーバーサイドの言語が判明しているWebサイトに占める割合。出典:W3Techs。2024年1月までの値は、W3Techsの年次推移表を引用したPriority Pixelsの記事(2026年10月)による アクセス数の順位別に見たPHPのシェア全体69.3%
上位100万64.5%
上位10万61.0%
上位1万59.7%
上位1,00059.3%
2026年10月21日時点。出典:W3Techs
ポイントは2つあります。一つは、既存のサイトがPHPから一斉に離れたのではなく、新しく作られるサイトでPHP以外が選ばれる割合が増えていると見られることです。その動きが、2021年頃から速まっています。W3Techsによれば、2026年7月には、JavaScriptがRubyを抜いてサーバーサイドで2番目に多い言語になりました。もう一つは、アクセスの多い大規模なサイトほど、PHPの割合が低いことです。上位1,000サイトでは59.3%と、全体より10ポイント低くなっています。システムが大きく複雑になるほど、PHP以外の構成が選ばれやすいことがうかがえます。それぞれの期間に重なる構造変化は、次の4つです。
2021年頃からの低下には、複数の要因が重なっている
シェアが下がった理由は一つではありません。主に次の4つが重なっていると考えられます。サーバーレス(04で詳しく扱います)は、その一つです。
要因 1WordPress自体のJavaScript化2018年にWordPressが導入したブロックエディタ(Gutenberg)は、JavaScript(React)で動く。テーマやプラグインの新しい開発でも、JavaScriptで書く部分が増えた。
要因 2画面とAPIの分離Next.jsなどのフロントエンドの仕組みが広がり、画面はJavaScriptで作り、データはAPIで受け取る設計が主流に。APIも画面と同じTypeScriptで書く選択が増えた。
要因 3クラウドネイティブとサーバーレスコンテナやサーバーレスが一般化し、事業者が標準で用意する言語(Python、Node.jsなど)が選ばれやすくなった。
要因 4学ぶ言語と人材の変化最初に学ぶ言語が、画面とサーバーの両方で使えるJavaScript/TypeScriptや、AI・データで使うPythonに移った。企業も人材を集めやすい言語で設計するようになった。
近年の動き:AI駆動開発の広がり(2025〜2026年)
2021年頃の低下の要因ではなく、近年に加わった動きとして、AIがコードを書く開発が広がっています。「自社にその言語のエンジニアが多いから」という理由で言語を選ぶ必要が薄れ、AIが得意とするTypeScriptやPythonなどが選ばれやすくなる、という見方があります(出典を確認できていない見方の一つです)。この動きは、2024〜2026年のシェア低下の加速に影響している可能性があります。
Web開発の4つの構造変化
① Web中心2000年代サーバーでページを作るアクセスのたびにサーバーがHTMLを作って返す。LAMPとWordPressの時代で、PHPが最も合理的。
→
② クラウドとAPI化2008年頃〜画面とサーバーを分けるWebに加えてスマートフォンのアプリからも同じデータを使うため、サーバーの処理がAPIとして切り出され、クラウド上に置かれる。
→
③ JAMstackとサーバーレス2015年頃〜必要な処理だけを動かす画面は事前に作ってCDNから配信し、処理はAPIや関数で必要なときだけ動かす。CMSもヘッドレス化が進む。
→
④ AI・データ2022年〜AIを組み込む生成AIをシステムに組み込むことが当たり前に。AI・データの中心にあるPythonの役割が広がる。
結果:PHPを禁止していなくても、PHPを新しく選ぶ必然性は構造的に小さくなる
②では、サーバーの処理をAPIとして切り出し、画面とサーバーをAPIでつなぐ疎結合の作り方が広がりました。Webに加えてスマートフォンのアプリからも同じデータを使うようになったことが、この流れを後押ししました。③のJAMstack(JavaScript、API、Markupの頭文字)は、画面を事前に生成してCDN(コンテンツ配信ネットワーク)から配信し、必要なときだけAPIを呼ぶ作り方です。こうなると、Webサイトを作るために、まずPHPのアプリケーションサーバーを置くという前提がなくなります。PHPが悪くなったのではなく、PHPが得意だった「アクセスのたびにサーバーでページを作る」仕事が、必須ではなくなったということです。WordPressも、2016年に標準でREST APIを備え、画面を切り離して内容だけを配信するヘッドレスCMSとして使われるようになりました。
ここまでの変化は、特定のクラウドに限らない業界全体の流れです。当社はこの流れの中で、クラウドの基盤にMicrosoft Azureを選び、PaaSを組み合わせる作り方を標準にしてきました。
Web中心の作り方
作りたいWebサイト
↓
Webサーバーを用意(OS・ミドルウェア・言語)
↓
Webアプリを作る(PHP/Laravelなど)
サーバーのOSや言語の更新は、自社で担うことが多くなります。
クラウドネイティブの作り方(当社の例)
作りたいサービス
↓
画面(フロントエンド)Static Web Apps
Web/APIApp Service
定期処理(夜間の集計など)Azure Functions
イベント処理(注文時の通知など)Azure Functions
AIMicrosoft Foundry など
Azure PaaS(OSや基盤の更新はクラウド側が担う)
画面の配信にはAzure Static Web Apps、APIにはApp ServiceやAzure Functionsを使い、③のJAMstackの作り方もAzureのPaaSで組めます。PaaS(Platform as a Service)では、OSや実行環境の運用をクラウド事業者が担います。Microsoftは、Webアプリの実行基盤であるAzure App Serviceを、自動で修正を適用するホスティングサービスと説明しています。自社が更新を担う範囲が小さくなるほど、今回のような脆弱性が出たときの対応も軽くなります。当社は、この考え方でAzure PaaS開発とクラウドネイティブアプリ開発に取り組んできました。
04/サーバーレス
サーバーレスアーキテクチャと言語:PHPを選ぶ理由が減るところ
サーバーレスアーキテクチャは、サーバーを用意せずに、必要なときだけ小さなプログラム(関数)を動かす作り方です。たとえば「毎晩0時に売上を集計する」といった決まった時刻の処理(定期処理)や、「画像がアップロードされたら縮小する」「注文が入ったら通知メールを送る」といった、何かをきっかけに動く処理(イベント処理)に使われます。2014年のAWS Lambdaの登場から始まり、当初は技術に強い一部の企業が使うものでした。監視サービスのDatadogは、2022年の調査で、2021年以降にサーバーレスが顧客の間で主流になったと述べています。2023年の調査では、主要な3つのクラウドの利用企業の半数前後から7割以上が、サーバーレスを使っています。
70%超AWSの利用企業のうち、サーバーレスを使う割合出典:Datadog「The State of Serverless」2023年
60%Google Cloudの利用企業のうち、サーバーレスを使う割合出典:同上
49%Azureの利用企業のうち、サーバーレスを使う割合出典:同上。対象はDatadogの顧客で、クラウドの利用に積極的な企業に偏る
サーバーレスが選ばれる理由:ここにも経済合理性
PHPがレンタルサーバーとWordPressの経済合理性で広がったように、サーバーレスも費用と手間の合理性で広がりました。
理由 1使った分だけ払う処理が動いた時間と回数に応じて課金される。アクセスのない時間のサーバー代を払わずに済む。
理由 2運用と更新を任せるOSや言語の実行環境の更新は事業者が行う。脆弱性への対応も、事業者の更新に乗れる。
理由 3自動で伸び縮みするアクセスが増えれば自動で処理を増やし、減れば止まる。ピークに合わせてサーバーを用意しなくてよい。
ただし、この合理性を得られるのは、クラウド事業者が公式に用意し、更新も行う言語の実行環境(以下、公式の実行環境)を使う場合です。主要な3つのクラウドのサーバーレスで、言語のサポートを比べると次のとおりです。
主要クラウドのサーバーレスと公式の実行環境(各社の公式ドキュメントをもとに作成)
言語
AWS Lambda
Azure Functions
Google Cloud Run functions
Python
○
○
○
JavaScript/TypeScript
○(Node.js)
○
○(Node.js)
Java
○
○
○
C#/.NET
○
○
○
PHP
自分で実行環境を用意(カスタムランタイム)
自分で実行環境を用意(カスタムハンドラー)
○
○は公式の実行環境があるもの。コンテナを使えば、どのクラウドでも任意の言語を動かせます。
Python、JavaScript/TypeScript、Java、C#/.NETは、3社すべてで公式の実行環境があります。PHPに公式の実行環境があるのはGoogle Cloudだけです。AWS LambdaとAzure FunctionsでPHPを使うには、PHPの実行環境を自分で用意して組み込む必要があります(AWSではカスタムランタイム、Azureではカスタムハンドラーと呼ぶ仕組み)。つまり、PHPを採用するために、わざわざ一手間をかけることになります。しかも、組み込んだPHPの更新は、事業者ではなく利用者が担います。サーバーレスを選ぶ理由だった「運用と更新を任せる」合理性が、PHPでは得にくくなるということです。
実際に使われている言語にも、その差が表れています。Datadogの2023年の調査では、AWS Lambdaで使われる言語はNode.jsとPythonが中心で、企業での利用拡大とともにJavaが伸びています。サーバーレスが一部の企業の技術から当たり前の選択肢になった2021年頃は、03で見たPHPのシェアの下がり方が速くなった時期と重なります。03で挙げたように要因は一つではありませんが、サーバーレスはその一つです。
Webアプリのホスティング(Azure App Service、AWS Elastic Beanstalk、Google App Engineなど)では、PHPも使えます。Webアプリだけを見るなら、PHPを選ぶ理由は今もあります。差が出るのは、Webに加えて、定期処理やイベント処理をサーバーレスで組み合わせる場合です。サーバーレスの比重が大きくなるほど、Webとサーバーレスで同じ言語を、公式の実行環境のまま使える選択肢が有利になります。
05/AI・データ
AI・データ活用の言語:PythonとTypeScriptが伸びる理由
システムにAIを組み込むことが当たり前になり、言語の選び方にも影響が出ています。GitHubの年次レポートOctoverse 2025によれば、2025年8月にTypeScriptがPythonとJavaScriptを抜き、GitHubで最も使われる言語になりました。一方で、AIとデータサイエンスの分野では、Pythonが引き続き中心にあるとしています。
No.1
TypeScriptが、GitHubで月間の貢献者数が最も多い言語に(2025年8月)
出典:GitHub Octoverse 2025
+49%
Pythonの貢献者数の前年比の伸び(約85万人増)
出典:GitHub Octoverse 2025
約8割
新しいリポジトリのうち、6言語(Python、JavaScript、TypeScript、Java、C++、C#)を使う割合
出典:GitHub Octoverse 2025
当社は、AIの研究開発と実装をPythonで進めてきました。PythonはWebアプリ(Django、Flask、FastAPI)、サーバーレス、AI・データのすべてで使えるため、同じ言語でシステム全体を組みやすくなります。画面中心のシステムではTypeScript、業務システムとの連携では.NETを選ぶこともあり、言語は一つに決めていません。
06/逆算の選び方
アーキテクチャから言語を選ぶ:PHPが構造的に選ばれにくくなる理由
ここまでを、選ぶ順序で整理します。従来は、作りたいWebアプリに合わせて言語とフレームワークを先に決めていました。クラウドネイティブでは、先に構成を決め、その構成全体に合う言語を選びます。
言語から決める順序
1作りたいWebアプリを決める
2言語とフレームワークを選ぶ(PHP/Laravelなど)
3動かすサーバーを用意する
アーキテクチャから逆算する順序
1Azure PaaS・クラウドネイティブで構成を決める
2App Service、Azure Functions、AIのサービスを組み合わせる
3AI・データとの連携を前提にする
4構成全体に合う言語を選ぶ
管理する言語の数で比べると
Web、定期処理、AIの3つの機能を持つシステムを例にした、説明のための比較です。
Webだけ別の言語にした場合
Web/API(App Service)PHP
定期処理(Azure Functions)Python
AI・データPython
2更新・監視する言語の系統
構成全体で言語をそろえた場合
Web/API(App Service)Python
定期処理(Azure Functions)Python
AI・データPython
1更新・監視する言語の系統
言語の系統が増えるほど、脆弱性情報の確認、ランタイムの更新、エンジニアの育成をそれぞれに用意する必要があります。Webのためだけに別の主要言語を持つ理由が小さくなる。これが、PHPが構造的に選ばれにくくなる理由です。
07/当社の例
2021年の技術選定を振り返る:Azure PaaSとPythonを選んだ一つの例
ここまで見てきた変化は、2021年に当社が開発標準を決めたときの前提でもありました。当時の考え方を振り返ると、判断の材料は次の3つでした。
材料 1Web開発のトレンド画面とサーバーをAPIで分け、画面は事前に作って配信する作り方(JAMstack)が広がっていた。
材料 2技術のトレンドクラウドネイティブとサーバーレスが一般化し、AI・データの活用も視野に入ってきた。
材料 3実行効率運用と更新をクラウドに任せ、使った分だけ払い、少人数でもセキュアに回せる構成を取りたかった。
この3つから、基盤にはAzure PaaSを選び、言語はPythonとC#(.NET)を中心に、案件に応じて選ぶ形になりました。どちらも、Webアプリの実行基盤(App Service)とサーバーレス(Azure Functions)の両方で、公式の実行環境が用意されています。
PythonAI・データとWeb/APIを同じ言語でAIの研究開発と実装で使う言語で、Django、Flask、FastAPIでWeb/APIも作れる。同じ言語で構成全体をそろえやすい。
C#(.NET)業務システムとの連携にMicrosoft 365や既存の業務システムとの連携に強く、企業向けの開発で実績の多い言語。
これはあくまで、当社の事情に基づく一つの例です。AWSやGoogle Cloudでも同様の構成は組めますし、PHPを選ぶことが合理的な場面もあります。今回の脆弱性を受けて言語を変えたのではありません。2021年の技術選定以降、新規開発でPHPを採用する理由がなくなり、PHPを使わなくなった、というのが経緯です。
Azure PaaSを選んだ理由の一つに、セキュアな構成を組みやすいことがありました。入口の防御、APIの管理、秘密情報の保管、認証、脅威の検知と監視といった機能を、自前で作らずにマネージドサービスとして組み合わせられます。下は、Webとサーバーレス、AIを組み合わせたシステムの構成例です。
Azure PaaSによるセキュアな構成の例(顧客環境に合わせて構成)
利用者(Webブラウザ・アプリ・他システム)
↓
入口の防御Azure Front Door世界中の拠点で通信を受け、WAFで既知の攻撃を入口で遮断する
↓
APIの管理API ManagementAPIの公開、認証、流量の制限、利用状況の記録をまとめて担う
↓
アプリと処理Static Web Apps画面(フロントエンド)を事前に作って配信。APIは関数とつなぐ
App ServiceWeb/APIの実行基盤
Azure Functionsイベント・定期処理を動かすサーバーレス
↓
データとAIAzure SQL Database・Storage業務データの保管
Microsoft FoundryAIモデルとエージェントの実行
全体を横断して守る
Key Vaultパスワード、APIキー、証明書を安全に保管し、コードに書かずに済ませる
Microsoft Entra ID利用者の認証と、マネージドIDによるサービス間の認証
プライベートエンドポイントデータベースなどをインターネットに出さず、閉じたネットワークでつなぐ
Azure Monitorログと稼働状況を集め、異常を検知する
Microsoft Defender for Cloud構成の弱点を診断し、脅威を検知して対処を促す
Microsoft Sentinel各サービスのログを集めて脅威を分析し、インシデント対応につなげる
こうした構成では、OSや実行環境の更新はクラウド側が担い、自社はアプリとデータ、設定に集中できます。WAFは、修正版を適用するまでの間、既知の攻撃経路を減らす補完策にもなります。ただし、どの構成でも、アプリやライブラリの更新は利用者の責任として残ります。セキュアな構成は、更新を続ける体制と組み合わせて初めて効果を発揮します。
08/判断軸
PHPシステムの考え方:棚卸し、更新、延命か作り直しかの判断軸
PHPで動いているシステムを持つ企業にとって、まず必要なのは言語の乗り換えではなく、今回の脆弱性への対応です。そのうえで、システムごとに延命するか、作り直すかを判断します。
STEP 1棚卸しPHPを使うシステムと製品を洗い出し、バージョンと実行方式を確認する。
→
STEP 2更新と確認修正版へ更新して再起動し、ログと不審なファイルで侵害の有無を確かめる。
→
STEP 3延命か作り直しか下の判断軸で、システムごとに方針を決める。
判断軸
延命が向く
作り直しを検討する
サポート期限
サポート中の系列(8.3以降)で動いている
サポートが終わった系列で動いている
改修の頻度
機能の追加がほとんどない
改修が多く、今後も機能を広げる
AI・他システムとの連携
連携の予定がない、または小さい
AIの組み込みやデータ連携を予定している
運用・更新の体制
更新と監視を担える体制がある
OSや言語の更新を担う人が限られている
延命と作り直しの間には、PHPのままApp Service(Linux)などのPaaSへ載せ替え、OSや基盤の更新をクラウド側に任せる選択肢もあります。PHP 8.2系は2026年12月31日に公式のサポートが終わるため、8.2系以前を使っている場合は、今回の更新と合わせて移行の計画を立てておくと安心です。
09/まとめ
開発言語の選び方:言語の優劣ではなく、構成から選ぶ
PHPは今もWebの多くを支える言語で、Azureでも使えます。一方で、シェアは2021年頃から下がり方が速くなりました。背景には、WordPress自体のJavaScript化、画面とAPIの分離、クラウドネイティブとサーバーレス、学ぶ言語と人材の変化が重なっていると考えられます。近年は、AI駆動開発の広がりも、言語の選び方に影響し始めています。Web、サーバーレス、AI・データを組み合わせる構成から言語を選ぶと、PHPを新しく選ぶ必然性は小さくなります。
開発パートナーを選ぶときは、Web制作が得意か、クラウドネイティブな開発が得意かという観点も、判断材料の一つになります。クラウドネイティブな開発を得意とする会社は、APIやサーバーレス、AIを前提に構成から設計するため、PHPのような特定のWeb向けの言語に依存しにくい傾向があると考えられます。確認するときは、言語の割合を聞くよりも、次の点をうかがってみてください。
確認 1クラウドの設計方針クラウドのマネージドサービスを前提にした設計の標準や指針があるか。
確認 2構成から言語を選ぶ考え方言語を先に決めるのではなく、構成全体から選んでいるか。
確認 3サーバーレスやAPIの実績サーバーレスやAPIを使ったシステムの開発実績があるか。
確認 4更新と運用の体制OSや言語の更新、脆弱性への対応を、どの範囲まで担えるか。
既存のPHPシステムを抱えながら次のシステムを計画する情報システム部門や開発責任者の方は、まず自社のPHPシステムを棚卸しし、更新を済ませたうえで、08の判断軸でシステムごとの方針を整理するところから始めてみてください。
著者 / Author
依光 薫平 株式会社ヘッドウォータース 執行役員 CMO
既存システムの見直しとクラウドネイティブ化のご相談
PHPシステムの棚卸しから、Azure PaaSへの移行、AIを組み込んだ次のシステムの設計まで、貴社の状況に合わせてご相談を承ります。
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